「お断りします」って、お前が言うなww

ネタ

みなさんこんにちは。

車屋さんってどんなイメージ?
近寄りがたい?騙されそう?
いろんなイメージがあると思う

車屋側としても、そのあたりを感じることが多く
不安にさせないように努めるわけだが
中には想像の斜め上でアタックしてくる客もいる。

大衆向けに高額商品を扱う店だからか割とおもしろいお客様と出会う機会が多く、
頻度でいうと、MacBookを持ってスタバに行くのとちょうど同程度だ。

今回はそんな珍客のうちの1人の話をしようと思う。

このお話は事実を元にしたフィクションですが、ほぼ事実に近いです。

初来訪

ある日、その男は現れた。

年齢は40代後半くらい

商品車を見るでもなく僕ら従業員に話しかけるでもなく、
Japanese NINJAのように気配を消してたのか、
はたまたコンビニ弁当の隅にあるポテサラのように存在感を消し、
まるで最初からいましたけど?みたいな顔をして、
とにかく知らない間に商談室に現れソファに腰掛けてTVを見ていた。

車屋における商談室とは、
外で車を見たお客様を半ば強制的に連れ込みクロージングをかけたり、
もしくは狙いの車が定まってないお客様と腰を据えて
じっくりと話し合い相談すると見せかけて契約まで誘導するという、
僕たち従業員にとっては神聖な場所であり、かつ最高の漁場でもある。

もちろん従業員である我々は、
聖域(サンクチュアリ)に突然現れたそれを無視するわけにはいかないので、
当然ながら声をかけることになる。

特に普段から決めていることではないが、
暗黙の年功序列により特攻隊員は一番年下の僕になるはずなので、
従業員同士の「誰が切り込むんだ?」という話し合いのフェーズを飛び越え、
必然的に僕が彼の元へ送り込まれることになった。

プロゴルファーがクラブを、侍が刀を、孫悟空が四星球をそうするように、
もちろん僕も「あわよくば契約まで持って行こう、むしろ感謝されるレベルで」という魂胆をしっかりと小脇に携えている。

僕「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件で?」

客「ああ、いや大丈夫です。お気になさらずに」

僕「(!?!?)はぁ…。」

ん??何が起こった・・・・?

ポルナレフなら間違いなくこう答えたであろう、
「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!俺は奴の前で会話を始めようと声をかけたと思っていたら、いつのまにか会話が終わっていた。な…何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…超話術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。」それくらい一瞬の出来事だった。

ちなみにポルナレフとは、漫画「ジョジョの奇妙な冒険」に出てくるキャラで、
わからないという人は「ポルナレフ 名言」でググれば
元ネタは山のように海のように溢れているので参考にしていただきたいし、
なんならそのままジョジョファンになっていただきたい。

話を戻す。

かつて車屋に来店したお客様に要件を伺ったときに
「気にするな」という返しを聞いた人はいただろうか、いやいない。

なぜなら大抵の人は車屋さんに足を運ぶ時には、
買うなり相談するなり修理するなり何なり用事があるだろうし、
もし従業員と話さずゆっくり見たいとしても「見させてもらいます」程度の返事はある、
それほど気軽には立ち寄れないほどほどの敷居の高さが車屋にはあると自負している。

それを「お気になさらずに」・・・だと?

郊外に建っているイオンの飯時以外のフードコートよろしく検尿サイズの紙コップになみなみと注いだフリーのお水で時間潰して座っていい場所じゃないんだよ、ここは。

そうは言っても本人が気にするなと言ってる以上、
話しかけるわけにもいかないし、
無理に追い返して「あの店行くと追い返されるぞ」なんて変な噂を広められても困ってしまう。
そう、まるで女の子に振られた次の日には「あいつのこと興味ないんだよねええええええ」って強がって言いふらす思春期真っ只中の中2男子のように。

しばらく放置して泳がせてみたが一向に動く気配はなく、
ひたすら来客用のソファに半ば踏ん反り返るくらいの角度で浅めに座り、
うっすらと本当にうっすらとサガミオリジナルくらいの薄さの笑みを浮かべながら、
ただひたすらTVを見ている。

もう他の従業員も店長ですら、彼のことをないもののように扱っている。
扱っているはおかしいか、ないものなんだから。

その状態で4時間くらいは居座り続けただろう。
僕の名誉のために言っておくがネタ記事だからと言って時間は盛っていない、
本当に4時間ほどその場所にいた。

そしてしばらく放置して気にも留めなかったのだが、気づけばいなくなっていた。
夢だったのかな?
初夏の暑さにやられて知らない間に熱中症にでもなって幻覚でもみたのか、
それとも僕が無意識のうちに記憶から消したかったのだろうか。

何にせよ、姿は見えなくなっていた。
なんだったのだろうか……。

これが悪夢の始まりになろうとは
この時は知る由もなかった。

 

悪夢の始まり

翌日、また彼が姿を現した。
同じ時間帯に。

完全に既視感、いわゆるデジャブというやつだ。
正確に言えば昨日もいたわけだからデジャブではない、リピートか。
前回も見たなこのシーン?
僕らは目を疑った。

だってそうだろう、昨日のほぼ限りなく無意味に近いやり取りをした後
4時間も居座り続けた上で、何もなく帰っていったんだから。
場所が場所なら不法占拠スレスレ、キャプテン翼の日向小次郎も目を背けたくなるほどのラフプレーだ。

そんな昨日のやり取りがあった上での再来訪、
常人の思考回路ならまずあり得ないし、あってはならないと思う。

そして更に驚いたこといことに、用件を聞いた時の返事が
「お気になさらずに」

お 気 に な さ ら ず に … … ?

え?それ昨日も聞いたよ?
そのあと4時間いたよね?
そんで今日もまた来て用件なしなの?ねえ?

もう理解できない。
今その時のことを思い返してみると、もう理解しようともしてなかったのかもしれない。
それくらい僕の経験・予測の範疇から大きく外れていた。

結局、その日もかなりの時間ソファに居座っていたが、
滞在時間を気にすることもなかった。
そんなことをするだけ無駄だと直感で思ったからだ。

この日も数時間居座り続けた後
いつの間にか姿を消していた。

驚くべきことに、次の日もその次の日も彼は姿を現したのだ。
しかも滞在パターンも同じ。

用事もなく、ただひたすら商談室のソファに浅く座り
ひたすらテレビを見ている。
もちろん僕ら車屋には用事はない。

来店頻度と滞在時間を合わせると、お得意様とかそういうレベルを逸脱しいている。
ただひたすら居座り続ける……ちょうどあれだ、座敷わらしレベル。

表情もずっとサガミオリジナルだし生気を感じないなと思っていたし
どう見ても座敷わらしだわ、妖怪だわこれ。

結局1週間ほどこのパターンが繰り返された。
こちらから何かアクションをとっても、「気にするな」の一点張り。
完全に悪夢に迷い込んだ。

 

ついに動き出した

そんなことを繰り返して1週間ほど経過していたある日、
コナンが小五郎に麻酔銃を打つかのような、もはやルーティーン化しつつあったこの小イベントについに動きがあった(!)

いつものように念のため、本当に念のため用件を伺ってみたところ

「気になってる車があるんですよね」と

来たああついに来た!!
小生、ついに山を動かすことに成功しました!!
誉であります!!!!!

もはや「お気になさらずに」を期待していた僕の脳みそは一瞬混乱し
その後、長い刹那の間をあけてスパークした。
子供の頃に初めてグレープフルーツを食べた時のような
期待した味と完全に違う味が口の中を襲う感じを想像していただけると伝わると思う。

色々あったけど、ここまでいろんなことがあったけど水に流そう。
座敷わらしとか言って妖怪扱いしてごめん。
結果として買ってくれたら、過去も全てそれでOK。
買ってくれるなら何でも都合よく解釈する柔軟な脳みその持ち主、それが営業職。

ここまで来たら、こちらのいつものパターンに乗せるのみ。

気になる車を聞いて様々な説明して
見積もり出して確認してもらって必要書類の説明をする。
そして全て了解を得たら契約書にサインをもらう。

この辺りはもう慣れたもので相手が誰であろうと目隠しでもできるくらい体に染み付いている。
ドMみたいに見えちゃうから実際に目隠しはしないけど。
見えちゃうのがダメなだけで実はドMだけど。

わからない人のために説明しておくと
車を買うには車を自分名義に登録する必要があり、
陸運局に住民票などの書類を提出したりする必要があるので、
お客様自身でその住民票を取りに行ってもらわなければならない。

さすがにこの日は住民票を持ってないとのことだったので
「また後日、住民票を持って来ます」と言ってこの日は帰っていった。

念のため補足しておくと、車屋の営業として名誉あることは3つあり
1,長期在庫の車を売ること
2,利幅が多い車を売ること
3,買わなさそうな客に売ること

今回の僕の偉業は上記の3に該当する。
言ってみればちょっとしたヒーロー扱いだ。
小学校低学年クラスで鼻血を出すくらいの注目度は得られる。

何はともあれ、僕は山を動かすことには成功した。
そのことに天狗になりかけていた。

 

話は急カーブする

契約書をこれ見よがしに店長や他の従業員に見せつけ天狗になる僕。
どれくらい鼻高かというと鉄棒競技で使えるほどしっかりしていて長い棒状、
ウチムラなら金メダル間違いなしの代物だ。

ここまで来たらいつも通りお客さん自身に住民票を持って来てもらって、
受け取り次第書類を作成し、それを陸運支局に持ち込み登録をする。
それと並行して車の整備を進めておいて、
登録が完了したらすぐ納車できるように準備をしておく。

書類はまだもらってないけど、早く納車できるように整備だけは進めておくように指示を出した。

次の日、同じ時間帯に姿を現した。
でもいつものリピートとは訳が違う。
もうすでに契約はとってあるし、住民票を持ってくるという用事もあるからだ。

だから、声をかけられるかなと思い待っていたのだが
声をかけてくる気配はなく、これまでと同じようにソファに座るではないか。
いつもと同じ表情(サガミオry)、同じ姿勢だ。
一体どういうことだ、もうそれはお腹いっぱいだよ、早く住民票をおくれ。

数秒の出来事だったが、この1週間の経験から自ら動く気配を感じなかったので
こちらから伺いをたてる。

僕「こんにちは、住民票は持って来ていただけましたか?」

客「・・・すみません、まだなんですけど・・・」

僕(けど?)

客「今日はちょっとお話がありまして。」

僕「はい、なんでしょう?」

客「一緒にタメになるお話聞きに行きませんか?
すごく勉強になる話で、無料で聞けるんです。
普通ならおそらく1万円くらいの価値がある講話をする人なんですよ。
参加する人たちもすごい人たちばかりで、お互いに高め合えますよ。」

……これ、あれだ。

僕の人生経験を総動員してもしなくてもほぼ確信した、なんかマルチの入口のセミナーだ。
いや、マルチがダメだとかそういうことは一切言うつもりもないし、
そういう話は自己啓発においてタメになるってこともわかっている……

わかってるんだけど、今じゃない!今じゃないんだよぉぉおお!!!!
そんな話よりも欲しいのは住民票!!しかも今すぐにだ!!

と憤ったところで住民票が降ってくるわけでも、生えてくるわけでも、
ましてや佐●急便が届けてくれるわけでも、
引田天功がイリュージョンでお札から変身させてくれるわけでもない。

その場は話を合わせて機嫌を損ねないようにすることに注力した。
下手に断ったり、説明を聞かなかったりして契約破棄にでもなったら元も子もない。
うまいコミュニケーションは自分が話すことより人の話をたくさん聞くことだと何かの本で読んだから
今がそれを実践する時だと思った。
ありがとう過去の僕、ありがとうその本の著者。

とにかく話を聞くことにしたのだが、
しかしこれが長い。いつまで話すの。
しかもなんかガワばっかりで、本質というか大事なところというか核心的なところはぼやかすような話し方。
完全マルチ!僕は心の中で決定を下していた。

延々とそのセミナーの話をする客。
もう自分の話しかするつもりがないのはタピオカを飲むために列に並ぶ覚悟をするより明らかだ。

車の話や、それに関わる必要書類の話など聞くつもりもないし
何だったらそれをさせる隙を与えないくらいの手数だ。
可視化するなら完全に北斗百裂拳。

前述したようにガワの話しかしなくて
誰が何を話すとか言わないので釈然としない。
聞いてはいるものの、僕の頭の中は純度100%で(はよその話終われ)だ。

どれくらいの時間が経過したのだろう
体の動作的には、その人の話を聞いていたのだが、
僕の意識は完全にトリップしていて長期間家を空けて帰ってきたような感覚に陥った。
どうやら話が終わったらしい。

肝心の住民票は明日持ってくるとのことで、この日の話は終わった。

そしてあくる日……
お察しのいい方は、この後の展開が予想できると思う。
歴史は繰り返されるものなのだ。

 

悪夢再び

昨日の約束どおり住民票を持ってきてくれてるはずなので
持ってきたかどうか確認してみる。

答えは「NO」だった。

え?あれ?自分で「明日は住民票を持ってきます」って言ったよね?
僕が無理やり「持ってこいよ!」とか言ってないよね?聞き間違いかな?ん??
ま、まあいい…これくらいのことは日常茶飯事。
「お客様は『神様』ではなく『王様』だと思え」って習ったし
1日くらい持ってこなかっただけで目くじらをたてるほど狭い心ではないと自負している💢

すると、向こうもこちらの心の隙間を読み取ったのか
その刹那を逃さず、すぐさま攻撃を仕掛けてくる。

客「あの、昨日の話は考えてもらえましたか?」

僕「昨日の話というと?」

客「タメになる話を聞きに行きましょうっていう話です」

僕「はぁ…」

もう車の話する気ないわこれ。
そうわかった瞬間にまた心をトリップさせる僕。

なんか話してるなーくらいで頷いてたけど途中で聞こえてきた
「あなたのような素晴らしい人こそ一緒に話を聞きに行きたい」
という、全っ然薄っぺらい心の表面層にすら全く刺さらない殺し文句で
さらに僕の心は離れていくのを感じた。

素晴らしい人ってテキトーやん絶対www
そんな分かり合えるほど話してないし、なんならこっちは全く自己開示してないし。

そんなこんなで僕人生史上1,2を争うほどのムダな時間が過ぎ
ひたすら話し続け満足した様子で帰っていった。

この後、なんとこのパターンの来店が1週間ほど続いた。
悪夢は終わっていなかったのだ。

その間「もう住民票なんて持ってくる気ないだろ」
何度も出かかったその言葉を飲み込んだ。
その度にきっとカメムシの匂いを嗅いだ時みたいな顔をしていたと思う。

…もう限界だ…

僕の精神は限界の時を迎えようとしていた。
最期の時が刻一刻と迫っているのを感じた。
いくら契約してくれたお客様とは言え、こんなに無意味な時間だけが過ぎていくことに耐えられない。
次回来店時にはるろうに剣心よろしくガッツリ斬り込んでやるからな!!
そう固く決意した。

 

信じられない一言

そして次の日、彼は姿を現した。
もちろん住民票など持っていない。
と言うかもう確認すらしない。
当然、住民票を出す気配もない。

そしてもはや当然のように「セミナー」の話を始めようとしたので
ここで僕は強めにストップをかけた。
K-1グランプリのレフェリーを務めていた全盛期の角田信明ばりの強いストップのかけ方だ。

「あの!住民票まだですか?
もう整備も終わってお車をお渡しする準備はできてますので
住民票を持ってきていただければ、すぐに登録して納車できますよ!」

すると彼は少し黙った後に
信じられない一言を発した。

「いい車だと思うんですが、今回はお断りさせていただきます。

は?嘘だろ?

あれ?あれあれあれあれあれあれ??
こっちから買ってくださいって言ったみたいになってるやん?w
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!
この車くださいって言い出したのそちら様からですよね??
おかしいだろwwwww

僕「この車買ってください」→客「お断りします」
この流れならわかる、誰もが納得の流れ。
食べなければ死ぬ、酒飲んだら酔う、出川が怒れば笑いが起きる。
そう言うことだ。

だけど今回の場合
客「この車ください」→客「お断りさせていただきます」
ぇ?ww もう理解の範疇を超えている。
もはや異次元だ。アナザーディメンションくらったのかな?
いっこく堂もびっくりの一人芝居劇。
この人と関わり出してからちょくちょく意識や次元や時間が飛ぶようにw

無理やりこっちが買わせようとしたテイにして
自分は悪くないとでも言いたいのだろうか。
そうは言っても「お断りします」の使い方間違えてるからな!

結局、契約は破棄となり
店長からは何やってんだと叱られる始末。
わかってくれとは言わないが、そんなに俺が悪いのか。
ララバイララバイおやすみよ。

なにはともあれ、この日を境に彼が店に姿を現すことはなくなった。
僕は不思議と安堵感に包まれた。

 

何年か前に起きた夏の出来事、
あれは幻だったのだろうか……
幻だったとて僕はこの出来事を忘れることはないだろう……

 

 

 

ごめんやっぱ忘れたい!